スーツコンシェルジュ松 はじめ

2,000人以上の洋服を仕立てたスーツコンシェルジュが思う 「装う」とは

突然ですがみなさんは「服装」って意識してますか?

私はオンもオフも楽な格好で過ごしてます。ピシッとするのは友人の結婚式くらいです。

さて、そんな私が今回は、「着ること」に人並み以上の愛を注ぐ、表参道のオーダースーツサロン『ボットーネ』代表の松はじめさんに「服の魅力」「装うとは何か」伺ってきました。

取材当日もビシッと決まったスーツ姿でお出迎えいただき、普段のラフな格好で訪問したことを早速後悔しました…
たつお
たつお
本当に毎日その日の洋服に気を使ってらっしゃるんですね!
松さん
松さん
そうですね、その日何を装っているかって、「僕はこういう人間だ」っていう哲学だと思うんです。

性格は話していくうちに少しずつ理解していくものだと思うんですが、服は何も言わなくとも発してしまう。仮に僕が、間違えてこの場にランニングシャツにジャージを着て来たら、いくら弁解しても、そういう人なんだなときっと思われる。
たつお
たつお
それはそれで面白いので私としてはオイシイですけれど。
松さん
松さん
フランスのジャン・アンテルム・ブリア=サヴァランという方の本の中に、『君の食べているものを言ってみたまえ。ならば君がいかなる人物か言ってあててみよう。』とあり、食通の方なんですけど、これは非常に深いなと思っていて。

服っていうのは我々がただ着て歩いているだけでも分かってしまうことを考えると、その日の装いで、その人となりが分かるので、ある意味怖いですよね(笑)。
たつお
たつお
はっは!そうですね!(笑)

(ヨレたポロシャツで伺いました。)

松さん
松さん
ですから、しまったなと思うくらいなら、きちんと装いたい。今度どういう方とお会いして、どういう風に見せる必要があるかって、1週間分くらい予定を組むんですよ。

気温や気分、曜日を入れ替えてみたり、組み合わせを変えてみたり。結局3〜4時間くらいかかるんですけどね。
たつお
たつお
そんなに時間をかけて。
松さん
松さん
その日どういう気持ちで過ごすか、どう見られるかっていうのは取り返しがつかないので。それから、オンオフは服装もはっきり分けるといいですよ。

パジャマを着て、夜だ、寝るぞとか。休日ならリラックスできるニット素材だとか。逆にビジネスではネクタイを締める、襟付きのシャツを着ることでスイッチが入る。

衣服を装うことで、自然と気分が変わるんですよ。自分自身をコントロールできる。こだわりというより、そういう生き方なんですかね。
たつお
たつお
ちょっと話が変わりますが、松さんがデニムとかパーカーを着ているイメージが湧かないんですけど、そういうのは着るんですか?
松さん
松さん
はい、オフの日には一通りいろんなものを試しますよ。パーカーもデニムも持ってます。ただ、買ってすぐだと自分のものになっていなくて、ちょっと恥ずかしいんですよ。なのでクローゼットで一旦寝かすんです。
たつお
たつお
せっかく買ったのに外で着ないんですか?
松さん
松さん
ただ新しい服を組み合わせても、自分の物になっていなくて、着せられてる感が出るんです。

映画の撮影でも新品のジャケットを着せると、いかにも新品、この役の私服って感じが出ないので、敢えて霧吹きかけて乾燥機にかけるんですよ。それで少しクタッとさせてその役の味になるんです。
たつお
たつお
なるほど、いかにもそのキャラクターが普段から着ているものに見えるように。
松さん
松さん
それに倣って、新しい服はオフで着ながら、エイジングさせて、手入れして、自分のものにしてはじめて人前で着るようにしています。

また、大先輩から映画を見て動きを研究しなさいと常々言われます。お酒を飲むときも、グラスに口を持っていかず、口にグラスを持っていく。それだけで服の動きがかっこよくなるんですよ。内面と外面って連動してるので、装うことはその両輪だと思います。
たつお
たつお
考えたこともなかったです…。

しかし、もともとスーツって西洋の服じゃないですか。日本人がスーツを着こなすのは難しい気がするんですが。
松さん
松さん
西洋だとbehavior(振る舞い)っていうんですけど、動きやマナーに関わってくるんです。帽子は室内では脱ぐとか、脱いだ帽子をどこにどう置くかというのはマナーなので、そういう部分も見られるんです。

西洋の上流階級では、洋服をきちんと装うことも教育なので親や先生が教えるんですけど、日本ではなかなか難しいですね。
たつお
たつお
なるほど、振る舞いも含めて装いなんですね。

こうしたファッションに関して発信を始めたきっかけや、その活動意義はどこにあるんでしょうか?
松さん
松さん
もちろん、もともとは好きだから何か伝えようってところにはなるんですが。

業界の大先輩、重鎮たちがご高齢になってきて。僕たちは正しく装うこと、例えば正しい靴ひもの結び方、綺麗な角の曲がり方とかを、その先輩たちから学んできましたけれど、それを次に伝える人間がいなくなっちゃうことが危惧されていて。
たつお
たつお
曲がり方まで!そんな所作まで学ぶんですね。
松さん
松さん
ある先生も仰るんですが、古いものがいいというわけではなく、歴史を学び、いかに現代でモダンに発信するかが我々に託されていることだと。

我々も古いものを研究して、現代的な発信をしていかなければならないと思っていますね。
たつお
たつお
松さんご自身にも、装うとか歴史を学ぶとかよりも以前に、シンプルにファッションに没頭するきっかけがあったと思うのですが。
松さん
松さん
もちろん1番最初は自分がかっこよくありたいという憧れからですね。でも着ているうちに、例えば友人の結婚式に行って、その場で浮かないようにとか、新郎を立てるためにとか誰かのために着ることもあるなって気づきが生まれて。

結局、装うっていうのは自分ではなくて人のためなのかなということに気づいたんだと思います。
たつお
たつお
なるほど、人のために。
松さん
松さん
ある先生から伺ったお話で、レストランで美味しい食事をしたければ、いい服を着て行けと。うちの料理を食べるためにいい格好をしてきてくれたのだから、こちらもいい料理を振舞おうと、レストラン側も意識してくれるということです。

なるほどと思いました。やっぱり、きちんと装っていると、相手も嬉しいでしょうし。
たつお
たつお
たしかにその通りですね…。とはいえ、洋服へのこだわりがある人と無い人には随分と差があると思うのですが、みんながこうした方がいい、こう考えた方がいいなと思うことってありますか?
松さん
松さん
日本人って「ボロは着てても心は錦」みたいな感覚がどこかにあって。

あんな見た目だけど根はいいやつなんだよとする文化があるじゃないですか。
たつお
たつお
ありますね。別にそういうのも嫌いではないですけれど。
松さん
松さん
それが、お仕事で海外に行かせていただいたりすると、海外では通用しなかったり。ビジネスでも初対面の相手に、装いがいい加減!と思われた時点で、その先のビジネスに発展しない可能性もあるわけです。もちろん、その後お付き合いするには教養も必要になるんですが。

服で、つまり最初の時点でマイナスになって、それで試合終了っていうのは寂しいと思うんです。
たつお
たつお
なるほど、スタートラインにすら立てないと。
松さん
松さん
であれば、せめて何かを考えて、自分が滲み出るので。別にTシャツであっても、なんとなく着るのではなく、そこに主張があればいいと思います。何か出会いがあるかもしれない。その服を通して何かが広がっていくというのは、結構大きいと思うんですよね。
たつお
たつお
こうした「装うこと」をテーマに発信していくことになったきっかけも伺えますか。
松さん
松さん
2005、6年頃にブログが誕生して、友人が始めたので、私も何かやってみようと思って。

今、新しく帽子を格好良く被るための「ハットスタイル」っていうサイトを作っていまして。私も帽子はまだまだ素人なので、業界の方からは早速様々ご指摘いただいているんですが。
たつお
たつお
松さんが素人ですか…。帽子は帽子で突き詰めるとまた違うんですね。
松さん
松さん
被り方から、タクシーに乗る時は脱ぐべきか?とか、傘を持つのには実は帽子が関係していたなんて歴史もあるんですよ。そういうのを1個1個お伝えしていこうと。

メディアはライフログだと思っていて、人生の中でたまたま帽子に出会って、ウェブでログとして残している感覚なんですよ。自分自身が2児の父なので、それを全部まとめた子供メディアを作ったり。やっぱり楽しくて、ずっと何か書いてるんですよね。
たつお
たつお
なるほど、伝えることと同時に自分の人生の記録という側面もあるんですね。
松さん
松さん
事業部を持ってらっしゃる大手さんは別ですけど、情報をまとめて、役に立つように伝えようというテーラーさんは少ない気がします。

私は、服のことで困った誰かのための、ファッションメディアの事業部を作っている気持ちで書いています。
たつお
たつお
今後の洋服業界や消費者にどうアプローチしていきたい、どうなってほしいという思いはありますか?
松さん
松さん
今、ウェブで調べて分かるような情報って、表層的な、手っ取り早くかっこよくなるハウツーみたいなのが多いんですよね。入り口としては有用だと思いますが、それだけ知って満足するだけでいいのかって思うところがあって。

もう少し本質に迫ってから、今風に崩していくと、きっと洒落たものができると思っています。
たつお
たつお
確かにそうかもしれないですね。私もよくそういうの参考にしますし。
松さん
松さん
今、服全体がリラックスの方向に向かっていて、世間的にもそれを求めているから、別にその軸でいいと思うんです。

ただ、本当にかっこいい人って、フォーマルもキチンと装えて、思い切り外せるからかっこよくて。外国人の方がやってるスーツにスニーカーを合わせるスタイルをそのまま真似するだけでは、洒落感は醸せない。
たつお
たつお
テレビ番組のひな壇とかでもそういう格好の方をよく見かける気がしますね。
松さん
松さん
「抜け感」って難しくて、ちゃんと着られる人がわざと外すから抜け感が出るのであって。最初から抜け感を演出するとだらしなく見えてしまう。

本当はこういう意味、着方があるというのを分かっていて外すのなら、文化として残していけると思うんですが、ただ外すだけだと…。
たつお
たつお
業界にもユーザーにも言えることなんですね。
松さん
松さん
スタイリストを雇っている政治家の方でもスーツの着こなしとか指摘されることがあるんだそうです。おそらく、歴史を踏まえたスタイリングやそうした服を作れる人がいなくなっているんでしょうね。原価も抑えなきゃいけないし。となると、どんどん服が悪くなっていくのではっていうもどかしさを感じますね。

古い服の方が仕立てが良かったりするので、逆に中古衣料が見直されていて。
たつお
たつお
古着屋さんには何十年前のものが良い状態で残っていますもんね。
松さん
松さん
そうなんですよ。古着市場と修理市場が今すごく伸びていて。リユース、リメイクとか、すごく理にかなっていると思います。

新しくて粗いものじゃなくて、古き良きものをみんなで共有していく方向に向かえばいいですね。それをちゃんと分かって提案できる人が増えて欲しいと思います。
たつお
たつお
私も古着屋さんで熱心に教えてもらって買った靴はリペアしてもらって、今も手入れとかマメにしますね。
松さん
松さん
その辺りの時代の服とか靴、例えばバブアーのような服も、それを着て本気で狩猟とかしていたわけで、作りも本気なんですよ。男の服は、本気で作って本気で着るっていうのが1番かっこいいんだと思うんです。

バブアー:イングランド発祥の衣料品メーカー。元々はファッションというよりも、厳しい環境下で働く漁師や港の労働者のための防水衣料が始まりなので作りが本気。外気を見事に遮断してくれるので実にあったかい。

たつお
たつお
私も古着屋さんで昔の服の本気さについては熱弁された経験があります。
松さん
松さん
でも、そうやってやってるところは時代の波に逆らえずに買収されちゃうんですよね。
たつお
たつお
そうして見た目だけ似せた作りになっていくと。
松さん
松さん
世界的にそういう潮流なんだと思います。もうそれは変えられないですし、ファストファッションが悪いとは思いません。

手軽にお洒落ができることと、ちゃんと着るかっこよさとは何かっていう、どっちも大事なんだと思います。
たつお
たつお
ご自身のご活動としては今後どのようにしていく予定ですか?
松さん
松さん
何か伝えたい、残したい、ファッション業界の大先輩達の生き様をメディアに残していきたいです。日本のダンディが集結するような、そういうものをちゃんと残して伝えていきたいですね。

服だけでなく葉巻を手に取る所作、歩き方、座り方、伝えていきたいんです。
たつお
たつお
日本のダンディ。憧れますしすごく見てみたいです。
松さん
松さん
服に関することを伝えていくこと、それが使命で、形に残していく。それが今後の軸です。

たくさんの出会いの中で、そこからどう派生していくのかっていうのは読めません。これからどうなっていくのかな?と思うとワクワクします。

取材・文:のみちたつお(@_nomichi_

この記事をシェアする
Extroomをフォローして最新情報を受け取ろう
松 はじめ
スーツコンシェルジュ
富山県滑川市出身、1978年3月生まれ。地元で自動車ディーラーとして勤務後、「洋服が好き」という理由のみでアパレル業界未経験で上京。その後経験を積み、「紳士な日本をつくる」をテーマに独立。業界では珍しく、着ることの楽しさをウェブを通じて伝え続け、メディアへの出演も積極的にこなす。