映画監督松本花奈

「何でも残せる時代に松本花奈が残したいものは、『感情の記録』

若手映画監督として、10代の頃から映像と向き合い、作品を残してきた松本さん。 現役大学生として、「私、勉強するのも好きなんです」と笑顔を見せる松本さん。 自分のやりたいことに挑戦し続ける彼女に、センチメンタルで感情にまっすぐな作品への思いと、いまの若者が生きる時代についてお聞きしました。
イマムラ
イマムラ
松本さんは学生もやりながら映画監督もされているわけですが、監督としてのご自身の役割はなんだと思いますか?
松本さん
松本さん
一言で言うと、「世界観を決めること」だと思います。具体的にする作業は、それぞれのスタッフさんがしてくれるので、私は世界観を提示することが仕事ですかね。
イマムラ
イマムラ
なるほど。
松本さん
松本さん
ですが役割としてはもっと単純に「伝えること」だと思います。そこの伝え方が間違ってしまったら全然違う方向に行ってしまうこともあると思うので、伝えることが重要だと思います。
イマムラ
イマムラ
伝え方ではどんなことを意識しますか?
松本さん
松本さん
人によって言葉の捉え方や感じ方も違うから、どういう人なのかを見極めてその人に寄り添った言葉で伝えることが役割だと思います。
イマムラ
イマムラ
ふむ。
松本さん
松本さん
例えば「おしゃれな感じ」と伝えたとしても、人によって「おしゃれ」のイメージも人によって違うので、「ガーリーな感じ」とか「疾走感がある感じ」とか言葉を変えながら伝えるようにしています。

その人がどういう感性で生きているのか、というのを見極めて、自分が表現したい世界観と一致する言葉を選んで伝えることが私の一番大事な役割だと思います。
イマムラ
イマムラ
やりがいを感じる瞬間ってどんなときですか?
松本さん
松本さん
そうですねぇ。作品を作る前に必ずイメージすることがあるんですけど。
イマムラ
イマムラ
はい。
松本さん
松本さん
これから作る作品を見て欲しい人、届けたい人をイメージして先に決めているんですね。「この人に見てほしいな」とか「この人に向けて作りたい」という感じで。
イマムラ
イマムラ
それは、松本さんの友達や知り合いみたいな具体的な実在する人、ってことですなんですか?
松本さん
松本さん
そうです。割と身近な人のことが多いですね。そういった、作品を作る前に想っていた人から何かしらの感想が来たりすると嬉しいですね。
イマムラ
イマムラ
なるほど。
松本さん
松本さん
見てくれた人、全員が理解してくれる作品って存在しないと思うんです。みんなが理解してくれなくても、自分が想っていたその人だけに何かが伝わればいいなぁという気持ちで作っていたほうが熱量が分散しないと思います。
イマムラ
イマムラ
松本さんは作家性の強い作品を作られることもありますが、そういったものも商業作品として広く世の中に受け入れなれければいけない、ということもあると思います。そういったバランスの取り方のようなものは意識されますか?
松本さん
松本さん
そうですねぇ。ちょっと話とズレちゃうんですけど、もともとはエンタメ系の作品が好きで見ているタイプなんです。だから商業作品は、どちらかといえばよく見ているほうなんです。
イマムラ
イマムラ
意外ですね。もっと雰囲気があるものを見ているのだと思ってました。
松本さん
松本さん
そうなんですよ(笑)。そういうのもあって、自主制作でやっていたときから意識していることがあるんです。
イマムラ
イマムラ
ほう。
松本さん
松本さん
「映画は絶対にお金を払って観てもらうものだから、その値段に見合うものにしないといけない」と思っていたんです。なので、ちゃんと「加工」をしないといけないと思っています。
イマムラ
イマムラ
ちゃんと加工する。
松本さん
松本さん
伝えたいテーマをそのまま映すなら、それはドキュメンタリーだと思います。ドキュメンタリーも良いんですが、自分がやりたいと思ったのは、ちゃんとドラマにして作るってことをしたいと思ったんです。
イマムラ
イマムラ
ふむふむ。
松本さん
松本さん
なので最初の質問にお答えすると、作品の中でどう感情を引っ張ってくるかとか、どう効果的に音楽を入れていくかとか。そういったギミックの部分をしっかり掘っていくことが重要だと思います。
イマムラ
イマムラ
なるほど。
松本さん
松本さん
映像はとても嘘がつける媒体なので、嘘がつけるならしっかりと嘘をつこうという意識が大切だと思っています。しっかり魅せてあげるためには、ギミックや技術の部分が問われていくんだと思います。

さっき言ったことと矛盾するようですが、実際はみんなに見てもらいたいしエンタメであって欲しいと思っています。
イマムラ
イマムラ
作品として成立させられるかどうかは技術の問題ということですか?
松本さん
松本さん
あとは本当にバランスだと思います。だからなるべく現場ではポジティブで居たいと思ってます。
イマムラ
イマムラ
現場でポジティブでいると、バランスが取れるということですか?
松本さん
松本さん
例えば見る人はワンシーンではなくて全体を見て何かしらの感想を持つと思うんです。だからどこか一部がうまくいかなかったとしても、もう一度全体を見て、それで調和が取れているかって視点で思考できるようになりたいな、とは思ってます(笑)。
イマムラ
イマムラ
そこは「なりたい」なんですね(笑)
松本さん
松本さん
そうですね(笑)。一つのシーンで立ち止まってしまうこともあるので、しっかりと切り替えられるようになりたいな、と思ってます。
イマムラ
イマムラ
伝えたいテーマがあって作品作りするということですが、松本さんの色々な作品全体を通して表現したいテーマって言葉にするとしたらどういったものなんですか?
松本さん
松本さん
もちろん作品によって異なるんですけど。 見終わった後に、心が軽くなったり、重荷が取れるような作品を作りたいですね。すっきりできる感覚になれるものを作りたいですね。
イマムラ
イマムラ
それは「開放」みたいなものですか?
松本さん
松本さん
そうですね。何か囚われていることがある人がいるとしたら、それから逃れられるような作品だったり、「まぁいっか」と思えるような作品を作りたいって思っていますね。
イマムラ
イマムラ
ご自身も若者世代の作家として、今の若者や時代感についてお聞きたいんですが。「開放」という話がありましたが、今の若者はどういった重荷や、抱えている気持ちがあると思いますか?
松本さん
松本さん
昔よりも、良くも悪くもいろんな出来事を記録することができる時代なのかなぁと思いますね。スマホで写真が撮れたり映像が撮れたり。
イマムラ
イマムラ
なんでもすぐに大量に記録できるようになったと思います。
松本さん
松本さん
そう。ただ記憶は美化されていくものだと思うんですよね。
イマムラ
イマムラ
記憶は美化される、ですか。
松本さん
松本さん
昔は今ほど全てを記録しておくことはできなかったから、昔の思い出を美化したり忘れたりすることができたと思うんです。
イマムラ
イマムラ
確かに。
松本さん
松本さん
だけど今は全て残っているから、例えば嫌なことがあっても何かしらの記録が残っていて、その記憶を呼び起すことができてしまう時代な気がします。忘れることが難しい時代ですよね。自分がどういう経験をしたり、どういうことを考えてきたかというものの蓄積が目に見えてしまうんです。
イマムラ
イマムラ
良いことも悪いことも残っていて、それが見えてしまう。
松本さん
松本さん
目に見えるからこそ、自分について考える時間が増えている時代で、だからこそ悩むこともあるんだと思います。今までの自分の過去の可視化ができるようになったから、「じゃあこれからどうしよう」ってことを考えてしまったり、忘れられることも忘れられない時代なのかもしれません。
イマムラ
イマムラ
松本さん自身はそういうことってありますか?
松本さん
松本さん
ありますねぇ。「あの時はこんなに楽しかったのになー」とか、過去と今を比べてしまったりすることはありますね。それがある種の生きづらさになっていると思いますね。
イマムラ
イマムラ
そういう若者たちってどうやったら救うことができると思います?
松本さん
松本さん
単純ですけど、変化を受け入れてあげることができたら良いと思います。学生時代や昔のことを思い出して「あの頃は良かった」と悲観するのはではなくて。

過去の楽しさを思い出すこともあるけど、移ろいを楽しめるようになればいいのかなぁって思いますね。
イマムラ
イマムラ
そういった思いは、作品にも影響していると思いますか?
松本さん
松本さん
あるかもしれないですね。映像も「残るもの」ですから。なんでも残っている時代にどんな作品を残すか、ということは考えていると思います。自分にとっても、一緒につくっている人達にとっても、見てくれた人達にとっても、その作品が「良い思い出」として残ってくれたらいいなと思います。

取材・文:イマムラケンタ()

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松本花奈
映画監督
1998年生まれ。慶應義塾大学在学中。 監督作、映画『脱脱脱脱17』が『ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2016』にて審査員特別賞&観客賞受賞。近作にテレビドラマ「平成物語」(フジテレビ・監督)、WEB CM「春、変わる時」(ホットペッパービューティー・監督)。その他の作品に、HKT48“キスは待つしかないのでしょうか?”MV、羊文学“Step”MV。最近の楽しみはラウンドワンでセグウェイに乗ること。